抜歯の際に麻酔を行うのは当然です。
と、これだけで記事を終わらせる訳にはいかないので、麻酔にまつわる事をいくつか述べてみようと思います。
「親知らずを抜く時に麻酔が効かなかった」
「片方は以前抜歯したけど麻酔が効かなくて痛かったので反対側は抜きたくない」
などとおっしゃる患者様は少なくありませんし、実際に抜歯していて麻酔が効きにくい場合も多々あります。
これにはいろいろな理由があるので順番に述べてみます。
赤い矢印で示したのがいわゆる親知らず、第三大臼歯です。
ここで、親知らずの外側(頬側)の骨がどうなってるかに注目してください。
緑の円で囲まれた部分です。
手前の歯よりも骨が分厚い事が一目でおわかりいただけると思います。
ここに局所麻酔を行っても、距離がある上に骨の構造自体も分厚い(皮質骨と言われる外壁にあたる部分です)ので、麻酔薬が浸透しづらく、その結果麻酔が効きにくいということになります。
なら薄い内側(舌側)に注射すればいいのでは?などと思われるのも当然ですが、内側には神経や血管も多く危険なので、内側には絶対注射してはならないという歯科医師もいるくらいです。
また最初の記事を引用します。
「感染症になっている、または感染症になる可能性が高い親知らずについては、抜歯する必要があると言えます。」⇒過去の記事はこちら
ここで、感染症とは、炎症とほぼ同じ意味であると考えてください。
炎症を起こすと、その部分には麻酔が効きにくくなります。
そのため抗生物質などで炎症をおさえてから抜歯するのですが、炎症の症状である痛みや腫れがなくなっても、十分に炎症をおさえきれていない場合(炎症が残っている場合)には麻酔が効きにくい、効かないという場合もあります。
また親知らずが虫歯になっていて、歯髄炎という炎症を生じていると麻酔が効きにくい場合があります。
「解剖学的な理由」で述べた局所的な問題を解消するために、下顎孔伝達麻酔という技術があります。
矢印で示す下顎孔と呼ばれる下顎骨に神経や血管が入る穴の近辺に麻酔をうち、下顎の半分程度に麻酔を効かせるというものですが、比較的深い部分まで注射をうつ事になるので偶発症も多くなり、このため近年ではあまり行われていないようです。
先にも述べた理由で麻酔が効きにくいので、私は親知らずの抜歯の際にはほぼ必ずこの麻酔を行うようにしています。
十分な麻酔を行えば通常は痛む事もなく抜歯処置を行うことはできますが、「局所的な理由」の局所炎症がある場合、どうしても麻酔が効きにくいという場面は珍しくありません。
しかしこの場合でも、追加の麻酔を行うことでその後の痛みがなくなることが大半ですのでご安心ください。
口腔外科専門医
稲田 良樹
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